綾のめぐみ 天然灰汁発酵建て
「藍」

熟成した藍甕の中に糸を漬け込み、
藍液を絞ると空気に触れた瞬間に酸化して美しい青色へと変化する。

「ほんもの」の藍染は市場の1%?

当工房の藍染は、江戸中期以前の古法に則った染め方を忠実に守っています。 古来からのこの藍は、化学染料と違い川を汚さず魚や虫たちと共存することができる染料です。現代では大変な手がかかるため、流通する藍染め全体の1%とも言われています。100日を越える蒅(すくも)づくり、照葉樹林に恵まれた綾の名水、そして日々藍と語らう染め師の手によってより一層深みを増していきます。

どうしてここまで手をかけこだわり続けるのか、それは化学染料では得られない澄み渡るような美しさと堅牢度があるからです。ぜひ綾つむぎの藍に出会いに来てください。

動画 AYA BLUE:https://vimeo.com/151225210
(色が変化する瞬間は2:00くらいから)

特徴

古法、天然灰汁発酵による藍建て

「発酵」と名の付くとおり甕の中で藍は生きています。ここが一般的な草木染と異なるところです。微生物の働きによって染まり、空気中の酸素に触れて発色する染色技法です。
職人は日々、大きな甕の液面に浮く「藍の華」等、機嫌をうかがい毎日手をかけ育てています。

合成された藍や、化学薬品を使えば手間もコストも減るでしょう。薬品に頼らない古来からの技術を継承することは現在では大変厳しく、国内ではこのような藍染を行う工房は数件となりました。

それでも当工房の藍は、自然や人の身体に害のない循環型で持続可能な100%天然藍にこだわり続けています。

良質な天然素材と照葉樹林の山に磨かれた清涼な水

天然藍染めの鍵をにぎるのが灰汁。「天然灰汁」とは、木灰を水に浸した上澄み液(アルカリ性)のことです。カシなどの堅い木の灰でないと色素を溶かすアルカリの力が不足してしまうので、当工房では宮崎産の良質なカシの木灰を使用しています。100%良質な天然素材から生まれる色の深さや鮮やかさを感じていただけたらと思います。

綾で染色をするのに良いことは何と言っても良質な天然水が豊富に使えることです。綾北川から汲み上げられる水は、色を濁らせる鉄分や石灰分がほとんどなく、染色には最適な水質です。森の清らかな水を使うと発色が違います。綾の名水が色の冴えをより一層引き立てるのです。

工程

仕込み

蒅(すくも)の状態ではまだインジゴ(青の色素)はまだ水に溶けていないため、さらに灰汁(アルカリ性の水溶液)の中で微生物の働きにより還元させ、染液を作ります。これが「藍を建てる」と呼ばれる還元染めの染液を作る工程です。
専門的な話をさせていただくと、天然藍染めを名乗る工房でも、藍は天然物だが灰汁の代わりにカセイソーダやハイドロサルファイトという還元剤を使ったりするところがほとんどです。
さらに発酵菌の主食となるフスマ(麦の皮)と、貝殻を焼いた灰。これらを540リットル入りの瓶で仕込むと染め液が出来上がります。

染め

建てた藍の染め液にゆっくりと糸や布を漬けていきます。藍液が浸透したことを確認したら、絞って空気にさらします。すると、瞬間的に酸化し発色。これがとても神秘的で、何年も染め続けた染師もその度感動すると言うほど美しく変化する瞬間です。
漬けては絞るを数回〜十数回繰り返し、徐々に濃い色に染めていきます。そうすることで丈夫で色落ちしない藍染めが出来上がるのです。
還元染めは単純に液に浸したところが染まるわけではなく、染料が空気に触れることで染まる、酸化↔還元の原理を用いた染色技法です。ですので、染めない部分は糸や木の板で空気に触れないようにして防染します。

日々の管理

藍の管理を任されている染師の一日は甕をのぞくことから始まります。使いすぎても休ませすぎても調子が落ちてしまうので状態の見極めが大切。液の表面に浮く泡「藍の華」の立ち方や匂い、色を確認。触れてみて液の粘りを指先で確認。最後はなめてみてその具合を確かめます。
機械で測定しても数字で計れるものではなく、言葉だけで伝えられるものでもないのが難しいところ。藍を立てた後の管理も、気温、湿度、天候…と常に変わる自然が相手なので、経験と五感すべてを使い、体で体得するしかない大変難しい技術です。
藍が美しく染まるかどうかは菌のご機嫌次第。疲れていると判断すると水あめや焼酎を与え「機嫌取り」をしたりもします。藍も人間と同じ、「だれやめ(晩酌)」が必要なのですね。

原料

蒅(すくも)

綾つむぎの藍は、阿波(現在の徳島県)に600年以上続く伝統の製法で作られた蒅(すくも)を使用しています。蒅とは、タデ科のタデアイという植物の葉を収穫した後、乾燥させてさらに発酵させたもの。四季のある日本で一年中染められるように編み出された世界でも類を見ない日本の染色法です。
まず、タデアイは水に溶け出さない性質で煮出すことができないため、一般的な草木染めのように色を煮出した液に糸や布を漬けて染めることはできません。そこで、タデアイの持つ色素を化学変化させることで繊維に定着できる状態にします。
タデアイの葉にはインジカンと呼ばれる無色の色素が含まれており、まず蒅づくりの工程で乾燥と発酵によりインジカンをインジゴに変化させることで青色を発色させます。
そして、その蒅を使用して藍を建て(還元)、空気中の酸素と結合(酸化)させることで初めて青色に染めることができるのです。
※藍建て(仕込み)、染め、日々の管理は「工程」を参照

藍の葉(タデアイ)